補聴器を購入する前に

補聴器装用のメリット

言葉のききとりがよくなる

やはり、聴力が低下して一番困るのは、言葉が聞き取りにくくなることです。特に、周囲が騒がしい所ではどうしても相手の言葉を聞き取ることが難しくなります。人と話すのがおっくうになったり、何となく話をあわせて分かっているふりをしたりすることも多いかもしれません。言葉がはっきり聞こえれば、家族や友人と話をすることが楽しくなります。それにより、毎日がより楽しく充実したものになることでしょう。

テレビや電話が聞き取りやすくなる

テレビの音を大きくして家族に注意されたり、電話の声が聞き取りづらく電話に出るのを避けたりすると、よくお聞きします。補聴器をつけることで、テレビや電話が聞き取りやすくなります。
また、最新の補聴器には、最先端のワイヤレス通信技術によって、テレビや携帯電話の音声を直接補聴器に届けることができる機能を搭載したものもあります。

小さい音が聞こえる

聴力の低下によって聞こえなかった色んな音が聞こえてきます。自分の身の回りにこんなにもたくさんの音があふれていたことに驚くでしょう。鳥の声、川の音、子供の声など、外に出かけることがもっと楽しくなるはずです。
また、たくさんの音が聞こえるようになることで、脳への刺激が増え、脳が活性化されるとも言われています。

危険を察知しやすくなる

聴力が低下してくると、近付いてくる車や自転車の音が聞こえにくくなるために、接近に気付くのが遅れがちです。
補聴器をつけることで、自分の周囲の音がはっきり聞こえて、状況を把握できれば、危険を未然に回避することに役立ちます。

補聴器の種類や特徴について

耳かけ型

耳にかけて使用するタイプで、耳あな型に比べて扱いやすくなります。以前に比べて、小さいものが増えてきました。スピーカー部分を分離して、耳のあなに収まるRICという目立ちにくいタイプもあります。

RICタイプ

本体とイヤホンをワイヤでつなぐ外耳道内レシーバタイプ(RIC)は、
より小さく、より自然な着け心地です。

耳あな型

耳のあなに収まるタイプです。耳のあなの形に合わせて型取りをしてオーダーメイドタイプが基本になります。難聴の程度が強くなると、スピーカーの出力パワーが必要になりますので、適合しない場合があります。

ポケット型

本体とイヤホンをコードでつなぐタイプです。ハンディラジオのような本体はスイッチが比較的大きいため操作が簡単です。

補聴器に関するトラブル

耳の疾患があったケース

症例 鼓膜穿孔 75歳女性

左難聴で受診。右耳は以前から聞こえない。鼓膜穿孔が大きく、中等度伝音難聴を認めた。鼓室形成術の手術をおこない、聴力改善した。

鼓膜穿孔

症例 耳垢栓塞 82歳男性

数ヶ月前から続く両側難聴で受診。両側とも、耳垢栓塞を認めた。
耳垢栓塞除去術にて、聴力改善した。

耳垢栓塞

症例 耳硬化症 55歳女性

徐々に進行する両側難聴で受診。両側とも、耳硬化症と診断された。アブミ骨手術にて、聴力改善した。

耳硬化症

こういったケースでは、治療により根本的な改善が期待できます。残念なことですが、現実的には、耳鼻咽喉科での診察なしに補聴器を購入されていることが多く、治療で改善が期待出来る中耳炎や耳硬化症であるにも関わらず、補聴器を装用している方がおられます。

聞こえにくいときに、自分の判断だけで補聴器を購入して対処するのは少し問題がある可能性があります。聴力障害と補聴器の両方にくわしい日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医補聴器適合判定医の診察をお勧めします。

聴力障害が引き起こされるケース

日常的に、雑誌・新聞やインターネット等で、集音器や補聴器の広告を目にします。
「集音器」は医療機器としての承認がなく、「補聴器」は医療機器としての承認があるものになります。わかりにくい広告では、「集音器」を「補聴器」と思い込んで購入してしまうことがあります。補聴器は、その人ごとの聴力にあわせて調整が必須ですが、通信販売の補聴器では調整もなくアフターケアもありません(逆に、それがないために安価なのですが)ので、大きすぎる音が耳に入ってしまい、逆に聴力低下が引き起こされてしまう場合があります。

消費生活センターによる調査では、安価な補聴器と集音器10種類のうち、9種類で最大音量が110dBをこえていたとのことです。このような機器を長期間使用していると、聞こえをよくしたいと思って使用しているにもかかわらず、逆に聞こえが悪くなる可能性があります。

補聴器が高額だったケース

店舗で補聴器を購入した場合や通信販売の場合、どれだけ高額の商品で あったとしても、基本的に「クーリング・オフ」は適用されません。消費センターへの相談事例の四割近くが30万円以上の補聴器購入事例です。高額の補聴器を購入してもその後の調整などがないため、結局たんすの肥やしになってしまっているということを診察室でよくお聞きします。私の家族の話ですが、数年前に購入した補聴器が聞こえにくくなり、再調整ではなく、同じ施設で新規に購入していたというようなことがありました。耳鼻科医の家族がいてもこのようなことがおこる日本の補聴器事情です。

一般に、補聴器1台の費用は、基本価格帯が5~10万円、普及価格帯が10~19万円、高価格帯が20~29万円、プレミアム価格帯が30万円以上となります。両耳装用の場合は割引になることもあります。最近の補聴器は機能がとても進んできましたので、基本価格帯で問題ないケースがほとんどです。そのため、はじめから高機能の補聴器を試すのはお勧めしておりません。
当院の補聴器外来は補聴器の販売が目的ではありませんので、まずは基本的な機能のある補聴器から試聴を開始して、補聴器適合検査などの検査を行いながら、ご希望に応じて機能を上げていくようにしています。また、検査や補聴器外来の診察についても、保険診療の範囲で行っておりますのでご安心下さい。

アフターケアが悪い(ない)ケース

「補聴器」は、その人ごとの聴力にあわせて調整(フィッティング)が必要です。通信販売や訪問販売では、そもそもその後の調整がありませんし、店頭販売でも購入した後の調整がなされていないことがあります。他施設で作成された補聴器が聞こえないとお持ちになる方が多くおられますが、不適切な調整をされていることが多く、音場検査や補聴器特性を調べると、聞き取るのに適切になっていません。
よくあるのが、「周囲の音がうるさい」ため出力を下げてしまうことです。その結果、「ないよりまし」という補聴器になってしまうケースです。このような場合は、持っているけど使われない補聴器になってしまいます。

1~2週程度の短い試聴期間では詳細な調整は困難です。とくに、補聴器をつけはじめて当初は、今まで聞こえていなかった音がたくさん聞こえてくるため、非常にうるさく感じます。短い試聴期間で、購入するかどうか選択を迫られる施設での購入はお勧めできません。当院では3ヶ月間の貸出期間を設け、補聴器相談医・補聴器適合判定医と認定補聴器技能者(業者)により補聴器の調整を行います。また、半年ごとにメンテナンスのための受診もしていただき、希望の方には定期的な聴力検査も行っています。

ご家族の補聴器を
検討されている方へ

ご家族が補聴器をつけることを検討したいと思われていても、ご本人がその必要性を感じておられないことがよくあります。自分はまだ聴力が低下していないと思っているのです。ご本人の気づかない所で、少しずつ社会生活が不自由になっていきます。

世界の補聴器事情のページに記載したように、聴力低下を放置することが将来の認知症や抑うつ傾向の原因になっていく可能性があります。

ですが、初めから「補聴器を考えてみたら」という風に家族の方に言われると、「年寄り扱いされた」と立腹されたり、拒絶されることも考えられます。

まずは、内科の診療所で血圧や糖尿病等の検診を受けるように、「一回、耳の検診を受けてみたら」と、受診をおすすめしてみてはいかがでしょうか。実際に聴力検査をしてみて、補聴器装用が必要な方にはきちんと説明してお勧めします。また、試聴期間も3ヶ月と長期で行いますので、初めは否定的な方も、一度試してみると、実際にその便利さを理解してもらうことで装用を続けていけることもあります。

公的補助について

障害者総合支援法による補装具費支給制度

公的補助の適応としては、両側70dBを越える低下となった場合に、身体障害者として認定され、補助を受けることが可能となります。身体障害者福祉法第15条指定医による診断書が必要です。
(WHOの推奨では、ささやき声が聞き取りにくくなるレベル、聴力が大人で40B、小児で30dBが補聴器適用の目安とされていますが、日本では残念ながらこの程度の難聴では補聴器装用に補助が得られる状態となっていません。)

補聴器購入時の医療費控除

平成30年度から、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の活用により、補聴器購入の費用が医療費として厚生労働省、財務省によって認められるようになりました。確定申告にて医療費控除を受けられます。医師による治療等の過程で直接必要とされて購入した補聴器の購入費は、補聴器相談医による書類の記載があれば医療費控除の対象として申請できます。

軽度・中等度難聴児に対する補聴器購入費用・修理費用の助成

多くの市町村で、身体障がい者手帳の交付対象とならない軽度・中等度の難聴児に対して、補聴器の購入費または修理費の一部の助成があります。
例えば、泉佐野市在住の方には、18歳未満の中軽度難聴児に対する補聴器交付事業として、「大阪府難聴児補聴器交付事業」(60デシベル以上70デシベル未満)と「泉佐野市難聴児補聴器購入等助成事業」(30デシベル以上60デシベル未満)の2つの事業があります。

高齢者に対する補聴器購入費用の助成

貝塚市では、65歳以上の市民税非課税世帯の方に対して、補聴器購入費用の助成があります。
詳しくは、貝塚市のホームページをごらんください。