日本や世界の補聴器事情
きこえの
しくみについて
音の伝わり方
音は、外耳道を通り、鼓膜を振動させます。その振動がツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨という耳小骨を伝わる中で大きく増幅され、蝸牛の中にあるリンパ液という液体を振動させます。その振動が電気信号に変換され、聴神経を通して脳に伝わっていきます。
難聴の種類
難聴の種類には、外耳・中耳に原因のある伝音難聴と、内耳・蝸牛・聴神経・脳に原因のある感音難聴と、両方に問題のある混合性難聴の3つがあります。伝音難聴は手術で改善する可能性があります。慢性期の感音難聴は補聴器で聞こえを補うことで、聞こえが改善します。補聴器でも改善の難しい重度の感音難聴の場合には、人工内耳という手術が適応になることもあります。
補聴器が適するかは、どの難聴によるかで変わりますので、耳鼻咽喉科での診察・診断が必要です。
日本の補聴器に
ついての現状
高齢化社会、日本
高齢化が進んでおり、総人口の30%が高齢者というのが現状です。それに伴い、難聴の方の割合も増えており、現在1900万人を超えると推定されています。
補聴器の出荷台数の増加
難聴患者数の増加に応じて、補聴器の出荷台数も増加してきています。
しかし、日本では、難聴だと感じている方の中で、実際に補聴器を使用している割合は14%程度と言われています。あとのページでも記載しますが、世界的にも非常に低い状況です。
補聴器を使用しない主な理由には、「面倒くさい」「それほど聞こえにくいとは思っていない」「補聴器をつけても元と同じには聞こえないと思う」などがあります。
少しずつ聞こえが悪くなっていくと、聞こえが悪い状態になれてしまい、とくに困っていないと思い込んでいる方が多い印象です。また、「年のせい」と、聞こえの悪いことは仕方がないと、諦めている方もおられます。そして、聞こえが悪いことを自覚していても、補聴器を使用することに対する抵抗感をもたれていることも多いです。実際に、装用を始めてみると、聞こえやすくて便利と思ってもらえることが多いのですが、試してみるまでに様々なハードルがあるようです。
補聴器と認知症 (世界の補聴器についての現状)
世界の補聴器使用率
難聴の方の割合はどこの国も10%前後と大きく変わりません。
しかし、下のグラフのように補聴器の使用率は欧米に比べて日本が明らかに低くなっています。
欧米で補聴器使用率が高いのは、補聴器に対する助成制度が充実しているというのも一因ですが、欧米は会話によるコミュニケーションを重視する文化であり、生活の中で人の話を聞くということの重要度が高いためだと思われます。そのため、難聴があれば補聴器を早めに装用する傾向があると考えられます。
さらに現在では、次に記すように聴力低下が認知症を促進するという報告があり、世界的に早期に補聴器を装用することが推奨されています。
聴力低下は認知症や
うつを引き起こす
聴力低下が認知機能低下を引き起こす
補聴器装用で聞こえがよくなるのはもちろんですが、近年、補聴器装用が認知症予防やうつの予防になると報告されています。
アメリカから、聴力低下による刺激が減少した脳では、社会的孤立により脳機能が低下することと、心理的に自尊心の低下等が起こることによる免疫能の低下で脳機能が低下していくとして、難聴が高齢者の認知機能低下に関与していると報告されました。
- 70歳以上の難聴者はよく聞こえている人より、認知機能低下が32%早くおきると報告されています。
難聴が認知症の発症危険度を増加させる
軽度の難聴で1.8倍、中等度で3倍、高度で5倍の危険度になると報告されています。
難聴を放置すると脳萎縮を引き起こす
聴力低下が上中下側頭回の脳萎縮(脳容量の低下)と関連することが MRI 画像解析により報告されています。
補聴器による聴力補助により認知機能低下を予防する
また、25dB以上の聴力低下があると、7歳年上の高齢者の認知機能と同等レベルの低下になると解析され、補聴器による補助により、この機能低下を防ぐことができると考えられました。